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コールセンターの成果を改善する方法~200社の運用実績から語る⑤

コールセンターの運営にゴールはない

私は16年間コールセンターの運営に携わってきました。その中で一つの結論に達しました。電話の窓口がある限りゴールはない。そして安定し続けることもない、ということです。

なぜならば、コールセンターの成果を改善するという課題はどの事業者はいつだって大なり小なり抱えていましたし、また、コールセンター自体もそれを課題と捉え、日々改善活動をしているからです。

満足のいく成果が出せてもその期間は非常に短く、すぐにまた別の課題、問題が発生する。それがコールセンターの運営だと思っています。

成果が良くても翌月同じ成果が出せる保証はない。保証がないということは、そこはゴールではなく、保証を得る=安定させる必要がある、という課題がそこに存在し続けるということになります。

だからと言って成るようにしか成らないと諦めているわけではありません。コールセンターという仕事とはそういうものだと認識した上で、活動を行うことが必要だと思っています。

コールセンターという特性上の課題改善の難しさ

当たり前の話ですが、課題が生じた場合、そこに至ったプロセスのどこかに原因があります。その原因の本質をしっかりと捉えなければ具体的で効果的な改善施策は立てられません。

他の仕事であれば、時に立ち止まって問題に向き合う時間をじっくり取って考えることもできるでしょう。しかし、コールセンターは朝になればまた電話が鳴り始め、止まることなく動き続ける中で改善施策を立て、その活動をしていく必要があります。

さらには、またその日に別の課題が発生することもあるため、課題が増えたり、混ざり合って複合的な課題になったり、形を変えたりと、状況が刻々と変わるため、その改善は非常に難しいと考えています。

改善するには、原因の本質を捉える。

では、それをふまえた上で「原因の本質を捉える」とはどういうことかをお話を一つ例を出して考えてみたいと思います。

ここ数ヶ月、応答率が低いという課題を抱えているコールセンターがあるとします。つまり鳴っている電話が取り切れていないということです。

事業者はその原因を「人の数が少ないからだ」と考え、コールセンターに「人の増員をしてほしい」と改善要望を出しました。

ですがその後数ヶ月経っても一向にコールセンターは増員を行えず、応答率も低迷したままです。

当然事業者の担当者は「改善するのに何カ月かかってるのか」とコールセンターに詰め寄ります。人が増えれば応答できる件数は増える、こんな簡単なことになぜ数ヶ月も時間を要するのか、まったく理解できないと思います。

コールセンターの管理者に聞いてもいつも「増員しようと努力はしているのですが・・・」といつもモゴモゴと口ごもってしまいます。

なぜ、増員できないのか、その本質を仮説を立てて考えていきます。

仮説①:採用コストがネック?
仮説②:研修する管理者リソース不足?
仮説③:新人が入ることによる他のKPIに影響が出る?

仮説①:採用コストがネック?
増員するためには採用が必要になります。そして採用するにはお金がかかります。その費用は事業者、コールセンターどちらが持つことになっているのか考えたことはあるでしょうか。

悲しいかな、人を採用する際の費用はコールセンター側の負担になっていることが多いです。業務の規模や経済条件にもよりますが、採用にかけられる費用を捻出するのが困難なケースも多くあります。

もしこれが原因なら「採用にかかる費用についてはご相談ください」と事業者側から一言かけていただければ瞬時に課題は解決するかもしれません。

仮説②:研修する管理者リソース不足?
採用コストがクリアできていた場合、実際の採用活動に踏み切れない理由の一つに研修する側(管理者)のリソース不足がよく上げられます。つまり、採用しても研修する余力がない、ということです。

先にも述べましたが、コールセンターは動き続けています。日々何かしら対処すべき事象が発生しています。その中で管理者の時間を1日フルに空けることは非常に難しいです。

時間を取っていたはずなのに、いざ研修初日になって新人を数時間放置する、なんてこともザラにあります。電話の向こうのお客様対応が何よりも優先される仕事ですからね。

新人さんはとても心細いと思います。周りは当然フォローしますが、初日で初めての職場でやっぱり不安になりますよね。

このように管理者のリソース不足で「増員ができない」こともよくあることです。

また、研修を行うにも時間をかける分、コミュニケーターさんの時給が発生するので、人件費がかかります。この研修費用をどちらが持つか、で滞るケースもあります。

仮説③:新人が入ることによる他のKPIに影響が出る?
新人が入ると受注率・定期引上げ率などの他のKPIが一時的に下がるため、それを許容できない状況であれば増員に踏み切れないということもあります。(「新人さんが悪い」ということではありません。習熟度が浅いためにそうなるとご理解ください。)

よくあるケースとして、増員して応答率は安定したが、受注率・引上げ率が低下する、なんてことがあります。

受注率が上がらなければ売上は伸びずコスト効率は下がりますので、新たな課題が出てくることになります。

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このように本当の原因は隠れているケースがほとんどです。しっかりとこの原因を捉えておかなければ、施策を実行したところで他の課題が出てくることになるだけです。

事業者からすれば「じゃあ、そういうことを言ってくれればいいのに」と言うと思いますが、「そういうことを言える環境にしているのか」を一度考えてみてください。そういう環境がないことが実は一番の原因であることも少なくありません。

一度、月次報告会などで課題を掘り下げてみる機会を設けてみてはいかがでしょうか。特に毎月課題にあがり、改善が見られないKPI項目があるのであれば、掘り下げてみる価値はあると思います。

改善活動ではなく、継続的活動と考える

前項のように本当の原因を捉えられたら、それを改善すべく活動を行うのですが、先にも書いたようにコールセンターは立ち止まることができません。改善しようにも、朝9時になればまた電話が入ってきて、日々の運用が始まります。

その中で改善を行うには、この改善していく活動をルーティンと捉えて、日々の運用に組み込む必要があります。

「人を増員する」ということを改善のゴールとしてしまうと、増員できたものの、受注率が下がった、定期引上げ率が下がった、などほかの課題が発生します。

改善活動を継続的活動と捉え、ルーティンに組み込むにはどうしたらいいかというと、大きな目標に向かってすべての活動のベクトルを合わせればいいということです。目標達成のためにすべての活動を行えば、課題や問題があっても乗り越えるための施策の方向性はブレません。

一つ一つの課題を点と捉えず、線で捉えて活動することで、点を一つ一つクリアしていけるようになります。

それを管理する手法が「PDCAを回す」、ということであると考えます。PDCA自体が継続活動ですからね。そしてこのような継続活動にすることが、KPIを設定する本当の意義であると考えます。

全ての活動の「向かうべき大きな目標」というのがこのマガジンのVol1で書いた、「コンセプト」になります。

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コールセンターは「人」の集合体である

最後に少し違った角度で改善する方法を書きます。
コールセンターの運営はすべて「人」が関わり運用されています。それが故に品質も成果もすべてそこに関わる人の態度、姿勢、言動が積み重なって作りだされる結果です。

事業者側の担当者のコールセンター管理者への接し方はそのまま管理者からコミュニケーターへの接し方に現れます。コミュニケーターはそういう接し方を今度は窓口のお客様に対して行います。その結果「成果と品質」は生まれます。

成果を重んじる事業者であれば、おそらくそのコールセンターは「成果はいいけど、応対品質がイマイチ」であることが多く、応対品質を重んじたハートフルな事業者であれば「応対品質はいいけど、成果がイマイチ」であることが多いと思います。

そのバランスの取り方次第でどっちにも振れます。そのバランスの取り方は「人」のマネジメントに集約されます。人は誰もが自由すぎない一定の制約・制限がある中で、ほどよい自由と心地良さが感じられ、気分よく仕事に取り組めているときが一番パファーマンスが高いはずです。

甘すぎてもダメ、厳しすぎてもダメ、ということです。しかし、少し甘いぐらいのほうが応対においてはお客様に優しくなれます。

では、何があればパフォーマンスが最大限に活かされるのでしょうか。私は「やりがい」だと思っています。どんな仕事も実はそこなのでは?とすら思っています。

「やりがい」は自分の内面から出てくることもありますが、コールセンターのように多くの人が止まることなく動き続ける、つまりゴールがない業態では成功体験を得る機会が少ないです。やりがいをしみじみ感じることが少ないです。

そんな時には「やりがい」を感じる瞬間を作ってあげることが重要だと思っています。その方法はすごくシンプルで今この瞬間からでもできることです。

それは、「ありがとう」をきちんと伝えることです。「そんな簡単なことか」と思ったのであれば、たぶん「ありがとう」をきちんと伝えられていない人なんでしょう。

「やりがい」は人から感謝をされた時に感じやすいものです。

仕事であれどやってくれたら「ありがとう」、その一言をかけてみてください。コールセンターの人達はなかなか褒めてもらうことが少ない仕事です。その一言で品質も成果も一段上がると思います。

余談ですが、「ありがとう」を1回の通話の中で3回言いましょう、と決めて運用していたことがあるのですが、それだけで応対品質が飛躍的に向上したことがありました。

電話応対では最初の名乗りと最後に「ありがとう」を言うので、間のどこかで1回「ありがとう」を言えば3回達成の簡単な施策です。

ですが、言う側が「ありがとうを言わないと」と意識することで、「ありがとう」に気持ちが乗ります。そうなると「ありがとう」を言える環境を作ろうと無意識のうちにお客様との関係性を良好にしようとします。

その結果、言葉遣いが柔らかくなり、応対が優しくなり、応対品質が上がったという経験があります。是非チャレンジしてみてはいかがでしょうか。

この記事の編集メンバー
高井 真吾(タカイ シンゴ)
コールセンター運用経験16年。立ち上げ及び運用実績約200社。通信販売、D2C、会員制ホテル、公共事業など様々な業務の支援実績。
・趣味:映画鑑賞・ゴルフ(まだ初めて1年)・ドライブ・立ち上げ支援
・姿勢:仕事ではなく、志事をする。
・モットー:笑顔・感謝・機知・機転

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